総長さんが甘やかしてくる③
男は呆れたようにため息をつくと、
「こちらが下手(したて)に出れば、そうくるか。言っておくが、ここは私道じゃない。公道だ。本来は、君たちが占領する権利さえない。よって許可なんてとる必要はない」
正論を並べ始めた。
俺の正体を知った上で、俺に向かってそんなことを言う男が、心底面白いと思った。
それに、漂ってくる黒いものを感じた。
半分人生を諦めているような。
他人に完全に心を閉ざしているような。
だからこそ、
そんな強気になれるのではないかと考えた。
「逃げるのか」
「上等だ。こちとてムシャクシャしてる」
――かかった
「泣かせてやるよ」
「いいや。俺が総長様の鼻へし折ってやるさ」
その男の名は、
正門愁太郎(まさかど しゅうたろう)。
のちに
俺の右腕と呼ばれる男になるなんてこと
このときは誰も思ってはいなかった。