総長さんが甘やかしてくる③
「いやー! マジで甲乙つけがたいレースでした!」
「俺ら、全然ついていけませでしたよ」
勝負は、引き分けに終わった。
「ナニモノなんすか、兄貴!」
「兄貴などと呼ぶな。気持ち悪い」
愁は、途端にヒーローになった。
「きっ……気持ち悪い!? そんなこと言わないで下さいよ〜」
「だいたい君はまだ中学生くらいじゃないのか。なのに、あんな大きなバイクを乗り回し。世間に迷惑をかけて。親はなにをしてるんだ」
あのとき説教されていたのは、今も黒梦に在籍し、愁を誰よりも慕うハゲだ。
「なんか、兄貴ってより。オカンって感じっスね」
「はぁ?」
ハゲは愁の言葉をウザがるどころか嬉しそうに聞いていた。
「あー、ちなみに親はもういないっス」
「……なに?」
「一人で暮らしてるんで」
「そうか。……その年で」
「ハイ。だから兄貴のこと本当の兄貴みたいに思っていいっスか?」
「どうしてそうなる」
「え!? だって、もう兄貴は黒梦のメンバーっスよね!?」
ハゲの言葉に、愁が目を見開いた。
「どうして俺が暴走族なんかに入らなきゃならん」
「あー、酷いっす。『暴走族なんか』って。ここは温かいチームなのに」
「黒梦の幻は、鬼だと。そう聞いたが」
「へへっ。幻さんが鬼強いのは否定しないっす。でもでも、無駄な暴力は避けるし、ゴミの分別カンペキだし。タバコじゃなくてパピコ咥えてるような可愛いところもあるんスよ?」