総長さんが甘やかしてくる③
そう言うハゲを隣からヒゲが「喋りすぎだバカ」と、肘でつつく。
「……そんなことより。どうして手を抜いた」
愁の言葉にハゲとヒゲの顔色が変わった。
「甲乙つけがたい? ふざけるな」
愁には、伝わっていた。
俺が勝負で本気を出していなかったことを。
空気が冷たくなり、周りも言葉を失う。
「経験値が違いすぎると思ってな」
「同情か」
「たしかにお前は上手いが。荒い」
「ハンデがあった上で互角なんて屈辱味わうなら。いっそ潔く負けたかった」
「そんな走りをしてると。死ぬぞ」
愁は、ヤケになっているように見えた。
走ることで気分を晴らしていて。
気分を晴らすためならどうにでもなればいいというような気配さえ感じた。
そんなあいつが、俺は
放っておけなくなっていた。
「約束は、約束だ。もう二度とここには姿を現さない」
ヘルメットを被ろうとする愁の腕を掴むと、俺はこう言った。
「真剣勝負は、持ち越しだ」
「経験値が違いすぎるのに。俺が勝てるとでも?」
「うちで磨け」
「……断ったら」
「断らないさ。まだまだ走り足りないし。いつか俺を負かしてやりたくて仕方ねえと。お前の顔に書いてある」