総長さんが甘やかしてくる③
先陣を切ったのにはワケがある。
ユウと幻を会わせる前に、状況を、この目で見ておきたかった。
どれだけ頭で幻を信じていても、好きな男が知らない女と部屋にでもいりゃ気分よくないだろうからな。
「燐。ユウとここで待機していてくれ」
二人を残し、車から降りると、階段をのぼる。
ここに、幻がいるのだろうか。
カスミという女と――……。
「こんな時間に来客か」
階段の踊り場でタバコを吸っていたのは、
「夜分遅くに、すみません」
「おお。坊ちゃんじゃねーか。久しぶりだな」
菊地(きくち)さん。
この店のオーナーで、幻が世話になっている男性だ。
「あの。幻は、中にいますか」
「お楽しみ中だ」
「なっ、」
「はは。嘘だよ」
「……笑えない冗談は、ほどほどにお願いします」
俺の親父と年がそう離れていないとは思うが、正反対ともいえるタイプの人間だ。
いい加減で、酒とタバコが手放せず
ギャンブルで負けることも多いみたいだが
きっと、情深い。
「出てったよ」
「いつ頃ですか」
「ニ、三十分ほど前だったか」
「どこに向かったかわかりますか?」
「さあな。次、いつ会えるかどうか」
「え?」
「娘に聞いてみろ。今夜あいつがどこに向かったか、少しくらいは心当たりがあるかもしれない」