総長さんが甘やかしてくる③


かすみの腕を、ぐっと引く。


「……どうしたの、木良」

「このくらい近づいたら。さすがの幻でも。君をどうにかしちゃうんじゃない?」


あと、3センチ。

君を引き寄せればキスできる。


「無理だよ。そんなの」


あー、照れちゃって。でも。

君の頬が染まっていくのは目の前の俺でなく、遠くにいる幻を考えているからだよね。


ほんとムカつくな。


「幻は、待ってても手に入らないよ」

「わかってる」


ふてくされる君に

強引に襲いかかるなんてこと、できるわけもなく。


「こじらせてるねえ」


友達っぽく話を聞くことしかできない。

こじらせてるのは、僕も同じ。


いいや。

僕の方がよほど――。


「木良は、わかんないよね」

「なにが」

「女の子に本気になったことないから」


えー。

それを君が言っちゃう?


本気になれないから遊んできたわけじゃなくて。


本気の子に、なにもできないから

他の子で紛らわせてきたんじゃないか。


だからさ、かすみちゃん。


「僕のこと考えて悩んだら?」


キス、させて。

幻のこと忘れさせてあげるから。


「は? なんで木良を」

「なんでだろうね」

「チャラいね。ほんと」

「…………」

「そうやって頼めば誰でもトリコになるなんて思わないで」


届かないなー。

なかなか。

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