総長さんが甘やかしてくる③
「木良」
林さんは、
「忘れたか。放っておけと言ったのを」
「あー。そういえば」
「白々しい」
そう言いながらも笑っていた。
おそらくは
僕が林さんの命令に背いてまで幻を引き止めようとしたことが意外だったからなのだろう。
僕は、きっと
幻の心がズタズタに引き裂かれるところをみたくなかった。
そんな幻を見て悲しむかすみは、もっと見たくはなかったのだろう。
「追いかけるぞ」
「応援は?」
「つけない」
「え……」
「俺が、いいって言うまでは。なにもするな」
幻を騙し廃工場から出てきた稔を見て
無性に腹がたった。
稔が満足そうにしているということは
中で幻が絶望してるとわかったから。
「木良」
それは、突入の合図だと思った。
でも違った。
「あいつの足。折ってこい」
「は?」
「うちの幻に手ぇだしたらただじゃおかないってこと。知らしめろ」
「……今ですか」
「いーや。夏が終わる頃でいい」