総長さんが甘やかしてくる③



ふと、思いだしたのは


『少しはマシになったな』


ゼッケンを縫ってあげたときの宗吾さんの顔、だった。


『去年は歪んでいたのに。あんなものを一年間着させられた俺の身にもなれ』


そう言いながら――ほんの少し、はにかんだ。


悪魔だ、悪魔だって。

ずっと思い込んできたけど。


(あれは、喜んでくれていた……?)


「宗吾は女の子をうちに連れ込んでたんでしょ。つまり、優吾と違ってそういう欲はあったんだ。どうして目の前に美味しそうなケーキがあるのに。わざわざ外から連れ込んだのだろうね」

「…………」

「鬼になりきれなかったんじゃないの。守ってたんじゃないの」

「…………」

「ごめんね。イジメっ子の気持ち。犯罪者の気持ち。わかっちゃって」

「……いえ」


そんな風に考えたこと、一度もなかった。

たとえ燐さんの考えが大きく外れていたとしても、自分の視野が狭いのだと気づく。


宗吾さんのこと、わたし、なにも知らない。


【おばさんに頼まれたんですね?】


あのとき、宗吾さん、返事をしなかった。


(なにを考えているの?)


わたし、放っておいて欲しかった。

全部あげたでしょって。思った。


わたしの、家も、お金も。


思い出も置いてきたんだ。


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