総長さんが甘やかしてくる③
「……幻が?」
俺にはあの二人が喧嘩するところなんて想像もできない。
「幻がユウを不安にさせるか?」
「わかってないなー。恋する乙女が落ち込む原因なんて大部分は好きな人のことに決まってるでしょ。ユウちゃんの気の動転の仕方からして十中八九、幻のことで悩んでるね」
どうしてそんなに乙女心が理解できるんだお前。
「愁」
シャツの裾を引っ張られる。
「……なんだこれは」
「こっちに寄って。ってこと」
「なるほど」
ユウに聞かれちゃマズイ話か?
まだ風呂場にいるからそこまで近づく必要性を感じないが、まあ、念には念をってことなのかもしれないな。
燐との距離を、つめる。
小声で作戦会議でも始まるかと思いきや
――突然、抱きついてきた。
ぶざけているようには見えない。
「万が一のときは。愁がユウちゃんのこと引き止めるんだよ」
「俺……が?」
「宗吾の手に渡れば取り返せなくなる」
「…………」
「さっきみたいにイジワルなボクに同調しなくていい。ワルモノは、ボク一人でいいから。これからもユウちゃんのこと優しく甘やかして。心許せる相談役になってあげて」
燐は、幻とトラブったときのユウを救うことまで視野に入れてやがったのか。
「惚れさせる覚悟でいけば。あわよくば手に入るかもよ」
「バーカ。ユウのことは妹みたいにみるって決めたんだ」