総長さんが甘やかしてくる③
「実はボク。一人だけ、幻に女の子の影が思い当たるんたよね」
燐さんの言葉に思わず耳を塞ぎたくなる。
でも、これは、黒梦の姫としても幻さんの彼女としても、目を背けちゃいけないことだ。
「誰だ?」
「羅刹の姫」
それを聞いた愁さんとわたしが同時に燐さんを見る。
「カスミっていうんだけど。名前に、少しだけ幻が反応してたことがあるんだ。まー、たったそれだけのことだったし。本人がとぼけたから深くは追及しなかったけどねえ」
カスミ、さん。
それがさっきの電話の人なのだろうか。
「電話の主がそのカスミって人物だとすれば。木良と二人で幻を陥れたり、うちの姫を動揺させたりできるじゃん?」
「あいつ、まさか羅刹の連中のとこに一人で乗り込んだのか……?」
「あるいは、敵が送り込んできたか」
「やはり羅刹は黒梦を潰しにかかってんのか」
「いいや。たしかに羅刹は何度かボクたちの絆を試すようなことしてきてる。けどさ、どれも致命傷与えるようなものじゃなくて、せいぜいユウちゃんが取り乱したりボクらが幻に不信感を募らせたり、ボクに疑いがかかるようなレベルのものなんだよね」
「いったい何がしたいんだ。羅刹は」
「さあ。木良は出て来ないで、周りの人間使って遠くから観察してるっぽいよね」