総長さんが甘やかしてくる③


背伸びした霞の顔が、近づいてくる。


そのとき。


『幻さん』


愛しい女のささやきが聞こえた気がした。


「――やめろ」


霞を睨みつける。


「どうして」

「こういうことは。あいつとしかしない」

「……アイツって。黒梦の姫?」

「ああ」

「ふうん。そう。じゃあ、最後に思い出くれたら諦める」

「もうよせ」

「その気にさせる自信あるよ」


俺の手を掴み自分の身体に押し当ててくる。


霞の手を振り払おうと思えば、いくらでも振り払える。


なのにそれをしないのは

霞に対する負い目からなのかもしれない。


「もらってよ」

「愛のない行為に耐えられるのか」

「なんでもいいよ。幻とひとつになれるなら」

「もっと自分を大切にしろ」

「絶対に内緒にするし。誰も傷つかないよ?」

「お前に手を出せば、あいつを裏切った自分が許せなくなる」


霞の手を振りほどく。


「……っ、意味わかんない。二人だけの思い出にすればいいのに。一度きりなのに。それもだめなの?」

「ああ」

「へえ。じゃあ、あたしのお願い聞いてくれないなら今すぐ通報するって言ったら?」
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