総長さんが甘やかしてくる③
「……あの子といるときの幻は見たことのないようなこと言ったりしたりするんだろうね」
「あの子、か。まるで会ったことのあるような口ぶりだな」
「あるよ。遠巻きにだけど、木良と見てた」
「パン屋まで偵察に来たときに?」
「なんだー。わかってたんだ」
ああ。そうだ。
羅刹の車が夕烏の仕事場の付近にとまっていて、中は見えなかったが、そこにお前が乗っているような気がした。
本当は、気づいている。
お前が木良の提案だけで俺に迫ってくるような女じゃないということにも。
霞の気持ちは変わっていない。
今も俺を、愛してくれている。
だけどそれを隠している。
俺を困らせるから。
それが伝わってくるからこそ。
――俺は、カスミと居すぎない方がいい。
霞の気持ちに応えられないことは、辛い。
かつて俺の救いだった女だ。
もっとも当時はそれに気づいていなかったが。
今ならわかる。
「幸せになってほしい」
「言われなくてもなるよーだ」