総長さんが甘やかしてくる③
荷物を最小限にまとめ、部屋から出たとき。
「帰ってくるんだろうな?」
オッサンと鉢合わせした。
「行く宛あんの」
適当な飲んだくれのクセにこんなときだけ勘を働かせやがる。
「世話んなりました」
もうこの部屋に戻ることもないだろう。
「給料渡してねーけど」
「受け取れません」
「霞は?」
「……寝てます」
「あいつが素直に寝るかよ。あんまり傷つけないでやってくれよ?」
「申し訳ないです」
「いつか、幻がもらってやってくらたら嬉しいなんて考えてたんだが」
その期待に俺は応えられない。
「なんだかんだ。お前のこと息子みたいに思ってるわけだしな」
「すみません」
「謝んな。別に、縛る気ねーよ。世話になったのはこっちの方だ。こんな飲んだくれ迎えに来てくれんのお前くらいだからな」
オッサンは酒や女に溺れるところはあるが、根は悪い人間じゃない。
別れた女のことを今でも想うくらいには不器用で。
俺に迎えを頼むのも、オッサンなりの、俺の可愛がり方だってことは気づいている。
だからこそ、これ以上、甘えるわけにはいかない。