そんなあなたに惹かれました
なんとか3人の誘いを断り、俺は帰ろうとしていた。

「おっ麗斗!ちょうどいいところに、お前今暇か?暇だよな?よーし手伝え」

「げっ鈴木」

「せめて先生をつけろ!」

俺に声をかけてきたのは鈴木健太。兄貴の親友で俺が小さいときからの知り合いだ。

今は社会科の教師をしている。クラスの女子たちにはかっこいいと騒がれてるらしいけど、こいつうるさいし!どこがかっこいいのか全然わかんねーわ。

俺は鈴木に無理矢理社会科教室に連れてこられた。

「で、何の用だよ」

「明日の授業プリントづくり手伝ってくれ!」

「なんで俺が」

「どうせ暇だろ?手伝えよ」

「はあ、まあいいか。で、何すればいいんだ?」

「そこのプリントまとめてホッチキスでとめて行ってくれ」

大量のプリントの束。多すぎだろ・・・。

俺は黙々と作業を続けた。

そしてふと外を見たらもう真っ暗になっていた。

「うお!?もう8時かよ!!!」

鈴木も気づいてなかったみたいだ。

「麗斗、こんな時間まで悪かったな!もう帰っていいぞ!」

「おー、じゃあ帰るわ」

今度なんか奢るからなーと言って手を振っていた。

手を振るってあいつほんとに大人かよ。



外に出て思った、暗くね?

俺は帰宅部だから明るい時間にしか帰らねーもんな。

この時間にはすでに部活は終わっているだろう。

校門に向かっていると、グラウンドの明かりがついていることに気づいた。

消し忘れか?

確認のためにグラウンドに行ってみると、人影が見えた。

きれいなフォームで風を切るその姿は人間のものだと思えなかった。

俺はその場で呆然と立ち尽くした。




【きれい】




心の底からそう思った。



「あれ?西園寺?何してるんだ?」

その人は俺に気づくと汗を拭きながら近づいてきた。

「こんな時間まで何してるんだ?」

「・・・・・綾瀬茉奈」

「フルネームでしかも呼び捨てかよ。私仮にも先輩なんだがな」

「じゃあ綾瀬」

「先輩ぐらいつけれないのか?」

「死んでも嫌」

「はあ、で、こんな時間まで何してたんだ?」

「鈴木の手伝いさせられてた」

「鈴木・・・ああ、鈴木先生か」

「綾瀬こそ部活はもう終わってる時間だろ?」

「自主練。部活だけじゃ練習量がたりなくてな、毎日部活後にグラウンド借りてるんだ」

「そうだったのか」

早い早いとは聞いてたけど、あんなに早いとは思わなかった。

不覚にも感動した。

「あっそうだ、お前今から帰るならちょっと待ってろ!」

そういって綾瀬は部室に走って行った。

え・・・?ここで待ってなきゃいけないのか!?

そして10分ばかりして綾瀬が走ってきた。

「悪い、待たせたな!よし、一緒に帰ろう!」

綾瀬は制服に着替えてきていた。

「これ、一緒に帰る意味あるのか?」

「どうせ駅行くだろ?行き先一緒だし。で、さ、」

綾瀬はちょっと歯切れが悪い言葉で何かを言おうとしている。

「今から時間ないか?」

「いや、別に暇だけど」

8時って行っても俺遅いときは11時とかに帰るし全然余裕だ。

「よかった!ちょっと付き合ってほしい場所があるんだが・・・」

「何?」

「駅前のスイーツ屋さんに行かないか!!!!!」

「は?」

スイーツ?え?何こいつ食べんの?スイーツなんて甘いもの食べないで肉!っていうがっつりしたやつしか食べないのかと思ってた。

「ダメか?」

「いや、別にいいけど」

「よっしゃ!」

あれ?俺は一つ気付いたことがある。

綾瀬って意外と表情筋柔くね?っていうかさっきから笑ってる。

「あ?どうした人の顔見つめて」

「いや、綾瀬って笑うんだなって思って」

そういうと綾瀬ははっとしたような顔をした。

「あっ悪い、気持ち悪かったよな!!!」

「え?なんで?」

「・・・・・昔クラスメイトにお前の笑った顔は気持ち悪いって言われてさ、、、それからはなるべく笑わないようにしてるんだ」

はあ!?こんなにきれいな笑顔が気持ち悪い?

「それいったのって女?」

「そうだけど・・・」

あっ絶対嫉妬だ。綾瀬真面目そうだから素直に受け止めそうだな。

「・・・・・じゃあ綾瀬、俺の前では笑ってもいいってことにしてよ。全然気持ち悪くねーし」

「ほんとか!?気持ち悪くないか!?」

「おう、でも、笑うのは俺だけの前にしてくれ」

「お?おう」

この笑顔を他の人に見せたくないだなんて思う俺は子供だろうか?

「お!ついたな」

綾瀬は嬉しそうにしている。

「パンケーキと、コーヒーと、お前何にする?」

「俺もコーヒー」

「パンケーキ一つとコーヒー二つですね。少々お待ちください」

綾瀬は意外とよく話し、よく笑う人だということが分かった。

たくさんの他愛もない会話をした。

「なあ、綾瀬?」

「んあ?」

パンケーキをほおばりながら答える綾瀬。

「・・・・その、だな」

「どした?」

「明日も自主練、見に行ってもいいか?」

「別にいいけど、自主練してるの7時30くらいからだぞ?」

「それでいいから」

それまでの時間は図書室かなんかで時間をつぶそう。

俺はどうしても、あの走りをもう一度見たい。

「あっ」

綾瀬は何かを思い出したかのように言い出した。

「見に来るのには条件があるぞ!」

なんだお金か?見学料か?

いったいいくらだ?と覚悟していると綾瀬はこういった。

「私のことはこれから茉奈先輩と呼びなさい」

「え?」

「綾瀬って呼び捨ては嫌だ!先輩って呼んでほしい!どうだ?」

綾瀬は俺の顔を覗き込んできた。

「それが見に行く条件なら仕方ないか」

そうまでしてでも見に行きたい。

「あ~おいしかった」

いつの間にかあや・・・茉奈先輩は食べ終わっていた。

「よし!じゃあまた明日、待ってるぞ!」

茉奈先輩は電車に乗って帰って行った。

俺の家は駅の近くだからすぐに家に着いた。

そして今日のことを思い出した。

あんなにきれいな人がいるのか。

俺は机の上に飾ってある一枚の写真を眺める。

「お~麗斗帰ってたのかって、その写真」

「兄貴おかえり」

「お~ただいま」

兄貴からはお酒の匂いがする。飲んできたなこいつ。

「これは、中一の頃だっけ?」

「ああ」

「懐かしいな~・・・」

それから少しの間沈黙が続いた。

「・・・・・お前さ、また走りたいとか思ってるか?」

「いや、思ってねーよ。俺にはもう無理だし」

「そうか」

兄貴は部屋から出て行った。

確かに俺は中学一年の頃陸上をしていた。

あの頃は走ることが大好きだったんだ。

・・・・・とか思っても、俺にはもう無理だ。

だからうらやましい。全力で走れる茉奈先輩が。。。
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