溺愛彼氏
「君のことだけを考えてる」
もみじくんなんか、もう知らない。
そう心に決めたのには理由がある。
たまたま仕事がはやく終わりもみじくんの会社まで向かった。
連絡を入れずに待っていたら、もみじくん驚くかな。なんて少々浮かれながらエントランスで待っていればまさかの現場に遭遇。
驚かされたのは私だった。
「じゃあ、明日よろしく」
「はい」
「楽しみにしてます」
「私の方こそ、瀧さんと一緒にお出かけできるなんて光栄です」
もみじくんと、なにやらもみじくんとお出かけの約束をしている綺麗なお姉さんの姿。
明日って、土曜日だから会社お休みなはずですよね……?
と、
「え、あんず?」
「あ、」
もみじくんの視線が私に向いた。どうしよう。
「あ、えーと、勝手に来てごめんなさい。邪魔して、ごめんね」
「え、あんず!」
「ごめんなさい、帰ります」
どうしていいのか分からなくてとりあえず私は逃げた。本当に私って最低だと思う。勝手に会いに行ったからバチが当たったのだ。
もみじくんは明日、あの綺麗な人とお出かけするんだ。私じゃダメなんだ。
先ほどから鞄の中でスマホがブーブー、鳴っている。
きっともみじくんだ。さよならとか言われるのかな。
本当、狡いな。なんかやだ。いつだってもみじくんに振り回されるのは私で。無視してやる。そう思っていたのに。
「……はい」
電話に出てしまう私は本当にどうしようもない。
《よかった、電話出てくれた》
「……はい。ごめんなさい勝手に会社に行ってしまって」
《会いにきてくれたんでしょ》
「はい、でも邪魔をしてしまったようです……」
私が言えば電話の向こうで、ふーっともみじくんが息を吐く音がした。
《あんず、嫌な思いさせてごめんね。でも多分全部あんずの勘違いですよ》
「明日、あの一緒にいた綺麗なお姉さんとお出かけするのですよね……」
《はい》
はい。って、はいって言った。ほら勘違いなんかじゃ、ないじゃないか。
《でも、あんずも一緒にだから》
「……え?」
《さっき一緒にいた人の家がケーキ屋で》
「……」
《車で迎えにきて連れてってくれるんだよ。明日は僕とあんずが付き合って3年目の記念日だからケーキ注文しておきました》
「うそ」
《本当です》
私は馬鹿だ。自分のことばかりで。もみじくんのことを疑うなんて最低だ。
「ごめんなさい」
《うん》
「私、本当に最低」
《本当に最低ですよ》
ぐさりと突き刺さるその言葉。「すみません」と小声で呟けばスマホから笑い声が聞こえてくる。
《僕が浮気すると思うわけ?》
「すみません、疑ってしまいました……」
《じゃ、覚えておいてください》
「……」
《前にも言いましたけど、僕はあんず以外の人には興味ないですから》