溺愛彼氏
「はんぶんこ」
《ピンポーン》
のんびりテレビを見ていれば、しばらくして鳴らされたインターフォン。
ぱたぱたとスリッパを鳴らし玄関へ向かう。少し重ための扉を開ければそこにはもみじくんがケーキの箱片手に立っていた。
「おかえりなさい」
「ただいま。はいこれ」
はいっと、渡されたケーキの箱は見るからに大きくて。私の分ともみじくんの分。ふたつ分にしては些か重たい。
けれど「疲れた」と気怠げに溢しながらケーキの箱を見つめる私の横をするりと通り過ぎていくもみじくん。
彼の背中を追い、リビングへと戻った。
丁寧にネクタイを緩め洗面台へ向かうもみじくん。
あれ、なにも言わないのか。と姿を消したもみじくんはさて置き。テーブルの上でケーキの箱を開ける。
と、
「もみじくん、こんなに食べきれないよ」
タイミングよくリビングに戻ってきたもみじくんに、箱の中と睨めっこをしながら投げかける。
そりゃあ、箱も大きいわけだ。
「ひとりで食べないでください」
「あ、はい。すみません」
箱の中には、ショートケーキとチョコケーキ、チーズケーキにモンブラン。
「僕はチョコケーキにします。あんずは?」
「え、じゃ、私はショートケーキで」
「じゃあ、僕もショートケーキ食べたいから、はんぶんこね」
「え、はい」
「で、僕は明日、チーズケーキを食べます。でもモンブランも食べたいから明日はチーズケーキとモンブランを、はんぶんこね」
言われるがまま、はいはいと返事をする私を横目で見て楽しそうに笑う彼。そうやってもみじくんが笑うから、私は少し小走りで取り皿とフォークを取りにキッチンへ向かった。
なんだかんだ、全種類美味しくいただいたのは言うまでもない。