溺愛彼氏
「君が悪い」
「ひとりって寂しいな」
ぽつり。広い部屋でひとり独白を溢す。
もみじくんが出張に行って3日目の朝。もみじくんのいなかった3日間はもの凄く長くて。3日間がまるで1ヶ月のようで。
もみじくんから届いたメッセージを読みぎゅっとスマホを握りしめた。本当に。私の気持ちを分かっていてこういうことを聞いてくるあたり狡いと思う。
ゆっくりとスマホの上で指を滑らせて、ぽふっとソファの上にスマホを投げた。
今日は仕事もお休みだし、ゆっくりしよう。体をソファに沈ませてテレビをつけた。
再放送のドラマを見て、撮っておいた映画を見て。そうこうしているうちに時計は昼の1時を知らせる。
なにか食べなければ。と、ひとりではあまり作る気にもならないが冷蔵庫を開けて食材と睨めっこ。
「なんにもない」
見事に空っぽな冷蔵庫の中。これでは本日の夕飯もなにも作れない。唯一あるのは卵のみ。
3日ぶりに帰ってきたもみじくんに卵かけご飯のみ……。
そこまで考えて急いで買い物に行く準備をする。簡単に外に行けるような服に着替え鞄を掴み玄関に向かった。
なににしようか。せっかくもみじくんが帰ってくるのだからもみじくんの好きなものを作りたい。
靴を履きながらカルボナーラかな。なんて思っていれば突然ガチャリと音を立てて開いた扉。
「っえ、」
「ただいま」
「……おかえり、なさい」
「どこか行くの?」
「……うん。夕飯の食材を買いに」
目が点になるとはこういうことで。目の前には夜に帰ってくると言っていたもみじくんの姿。
あれ?まだお昼過ぎですよ?
じっと、もみじくんを見つめていれば「夜ごはんはなに?」なんて普通に会話を始めるものだからもうよく分からない。
「カルボナーラにしようかなと思ってます」
「僕、カルボナーラ好きですよ」
「知ってます」
「さすがですね。あんずの作るカルボナーラ大好きです」
「ありがとうございます」
私が言えばもみじくんはふわりと笑った。本当にもみじくんが帰ってきた。
「あんず」
「はい」
「買い物に行く前に、ちょっとだけ充電させてください」
「え?」
するりともみじくんに手首を掴まれた私は一瞬にして彼の胸にダイブした。
「もみじくん?」
「なに?」
「少し、苦しいです」
ぎゅっと抱きしめられた体が苦しくて、そう言えばもみじくんはさらにぎゅっと腕に力を込める。
あれ、伝わらなかったのかな……?
このまま私はもみじくんに抱き潰されるのではないだろうか。
そう思ったけれど、
「ちょっとだけ我慢してください」
「……」
「3日間、あんず不足で死にそうでした」
「……」
「しかも、あんずがあんなLINE送ってくるのが悪いです」
「……すみません」
「帰るの夜だったけど、全力で仕事切り上げて帰ってきたので、とりあえず褒めてくれませんか?」