溺愛彼氏
「早く帰ってきて」
朝、ベッドから起き上がれば隣で、もみじくんが無防備に眠っていた。
昨日は遅くまで仕事をしていたみたいで帰ってきたのが遅かったから、きっと疲れているのだろう。と起こさないようにゆっくりとベッドの中から抜け出す。
「おはよう」
眠っているもみじくんに、ひと言。小さな声でそう呟き寝室を出た。
いつも通り、自分の分ともみじくんの分の目玉焼きを作り、冷蔵庫の中に残っていたソーセージを焼いて簡単にお皿に盛る。
ひとりで、朝ご飯を食べ終え、着替えて化粧を済ませる。
もみじくんの分の朝ごはんの横に手紙を置いた。
寝室の扉をゆっくり開ければもみじくんはまだ眠っているようで。寝ている顔でさえ綺麗で羨ましいかぎりだ。
「行ってきます」
ひと言残して、私はそのまま家を出た。
いつもの道を歩いて駅まで向かう。ホームで電車を待っていればコートのポケットの中でスマホが震えた。
どうやら、眠り王子がお目覚めのようだ。
「もしもし、おはようもみじくん」
《おはよう、ごめん出ていくの気がつきませんでした》
「全然大丈夫ですよ。もみじくん疲れてるからゆっくり休んでください」
《ありがとう。あと朝ごはんもありがとう》
「いいえ、とんでもないです」
まだ眠たさを含んだもみじくんの声音が耳元で優しく言葉を溢すからなんだかくすぐったいけれど、心地よくて落ち着く。
〈1番線に列車が参ります〉
けれど、それをかき消すように大きな案内の放送が入った。
《もう電車くるね》
「はい」
《気をつけて行ってらっしゃい》
「ありがとうございます。行ってきます」
「じゃあ」と言って電話を切ろうとすれば「あ、待って」というもみじくんの声に捕まり、再びスマホを耳元へ戻す。
「……どうしました?」
《手紙もありがとう》
「いいえ」
《朝、会えなかったから、》
「……」