わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「そうか、行かないんだ。今回、中東だっけ?」

「そうです」

「気をつけて行ってきてね」

海外出張って言っても、アメリカあたりならしょっちゅう行ってるしあんまり心配しないんだけど……。

「大丈夫ですよ。いつも通り商談です。危ない地域に行くわけでもないし」

「うん……。お父様の事もよろしくね」

「いつも通りに。社長ですから」

榛瑠は表情を崩さず言う。その顔が逆にわざとらしくも見える。

お父様と榛瑠って微妙に仲悪いんだよね。そのくせ、お父様もアメリカからわざわざ呼び寄せたり、こっちはこっちで文句も言わずその下で仕事したり、わかりにくい。きっと、私のためもあるんだけど、二人とも。

「ずいぶん心配してませんか?珍しくないのに、出張なんて」

そう言って榛瑠は一花の頬に手をそえる。

あったかい。骨ばってて指の長いいつもの手。安心する。

「こんなに長期のなんてないもん。初めてだよ」

そう、約一年前に、榛瑠が日本に戻ってきてからこんなに長く側からいなくなるのは初めてだ。

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