わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花は自分の部屋に戻ると、ベットの上に体を投げ出した。

心も体も動かない。疲れた。眠ってしまいたい。全部、忘れてしまいたい。

懐かしいことも、全部。

そのままうつ伏せに横たわっていると、ドアをノックする音が聞こえた。

一花はのろのろとベットの端に座ると、どうぞ、と言った。

入ってきたのは月子だった。手にトレイを持っている。

「榛瑠様から焼き菓子をいただきましたのでお持ちしました。紅茶でよろしかったでしょうか?」

「うん、ありがとう」

そう言って月子がテーブルで紅茶を注ぐのをぼうっと見ていた。

「あと、こちらですが」月子はポットを置くと、可愛くラッピングされた小袋を手に取った。「こちらもお菓子だそうですが、一花様用だそうです。一緒に置いておきますね」

私用?なんだろ。

「ありがとう。……榛瑠は?」

「もう、お帰りになられました」

月子が退室した後も、一花はしばらくベットに座っていたが、やがてのっそり立ち上がってテーブルに座るとお菓子を口にした。厚みのあるクッキーだった。何度か似たようなものを食べたことがある。

だいぶ冷めた紅茶も口にする。

それから、袋のリボンを開けて中のお菓子を取り出した。こちらも似たようなクッキーだった。

どこが私用なの?
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