わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
特に変わった感じもないそれを口にする。先ほどのとは中に入っているものが少し違いはしたが、特別な感じは特になかった。

でも、とても美味しかった。一花はもう一枚手に取る。

特に変わってはないけど、こっちの方が、好きだな。美味しい。

そう思いながら口に入れる。甘みが抑えてあるけど、中に入っているベリーやナッツがおいしい。好きな味だなあ……。

「あ……」

そのことに気づいた時、涙が溢れでた。

おいしいはずだ。これ、私の好きな味に作ってある。だから、私用、なんだ。

なんで?どうして?レシピでも出てきたの?

何を思って作ったの?

私のためのお菓子。

一花は泣きながらお菓子を口にし続ける。

せっかく、振り切ろうと思ったのに。今度こそ忘れようと思ったのに。

なのに、人を捕まえて、振り向かせて、揺さぶるようなことを平気でする。

相変わらず、自分勝手で、自己中で、わがままで、最低なヤツ。

本当に、本当に、嫌い。

大っ嫌い、なんだから。

泣いてうまく飲み込めない焼き菓子は、最後まで美味しかった。



< 102 / 172 >

この作品をシェア

pagetop