わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
それを口にする前に、再び一花は名前を呼ばれた。

「一花、何やってんだ、こんなところで」

声の方を見ると鬼塚だった。外回りから帰って来たところだろう。

「あ、鬼塚さん、お疲れ様です」

「おつかれ。お前もう終わりだろ?……知り合いか?」

背の高い鬼塚が見下ろすように須賀を見る。

「あ、うん。知り合いのお店の……」

「こんばんわ。飲みに行くとこなんです。まだ、仕事っすか?社会人ってたいへんだなあ」

「お前は?学生?」

「大学生です」

「へえ、なんだよ、OG訪問って時間でも無いぞ」

「そうだとしても、私なんか役に立たないよ……」

一花がボソっと言うのを聞いて須賀は笑った。

「そんなわけないじゃないですか。さ、行きましょ一花さん。バイト代入った今のうちなんですから」

ええ〜と思いつつ一花は鬼塚を見上げた。もの問いたげな表情をしている。きっと、止めて欲しい、といえば止めてくれるだろう。

でも、一花は、まあいいか、と思った。

鬼塚さん怖いもん。そんなことしたら須賀くん傷ついちゃうよ。特に用事があるわけでも無いし、まあ、いい、か?

「あの、えっと、ちょっとだけだよ?明日も仕事だし」

須賀は笑顔で頷く。

鬼塚が眉をひそめて一花を見る。

「大丈夫、鬼塚さん。……飲まないようにするから」

一花は確認するように須賀を見た。

「もちろんです。ちゃんと送るし」

「……まあ、いいけど。俺の口出すことじゃ無いしな。でも心配かけないうちに帰れよ」

わかってる、と言って一花は須賀と歩き出した。
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