わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「誰ですか?あの人。会社の人ですよね?」

「ああ、うん。でも、友達の彼氏でもあるし仲よくしてもらってるの」

そうなんだ、と須賀は明るく言うと、

「何食べたいですか?パスタとか?中華?居酒屋とかのほうがいいかな」

と、立て続けに言って、最終的に、中華の店に連れて行った。

赤い内装に油っぽさのある年季のある店は一花には新鮮で楽しかった。

「あ、誘ったし、奢りますよ」

「いいよ。そんなこと言ったら、私、社会人だよ。むしろ奢ってあげるほうじゃない。せめて割り勘」

そんなことやら、学生生活やら、会社員生活やら、とりとめないことを話す。

須賀は始終明るい笑い声をたてていて、話し手をいい気分にする子だな、と、一花は思う。

「ビールお代わりします?」

「私はいい。須賀くんはどうぞ」

じゃあ、ともう一杯頼む須賀に一花は言った。

「車使わないと飲めるところがいいよね」

「使わないどころか車ないですけどね。免許もないし」

「私も免許持ってない」そうなんだ、と言われ一花は付け足す。「周りの人たちがみんなして絶対とるなって言うんだもん。どう思う?それ」

「正しいよ、きっと!」

「えっ、ひどっ」

ふたりして笑いあう。一花はこんなふうに笑うのはなんだか久しぶりな気がした。

中華の店をでた後、須賀が言った。

「駅まで結構距離ありますけど、タクシーとかの方がいいかな。歩くのもありなんですけど、場所が結構半端なんだよね」

「私は歩きたいかな。よければだけど、まだそんな遅い時間でもないし」

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