わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
雨は少しづつ強くなっていって、二人は通りがかったビルの雨が当たらない入口の下でとりあえず足を止めた。

「しまったなあ、もうすこし早く出ればよかった。濡らしちゃってすみません」

「たいしたことないし、全然、平気だよ。私も折りたたみ傘持ってこれば良かったのに、ごめんね」

俺は全く大丈夫、と、須賀は笑った。

「俺、あそこのコンビニまで走って傘買ってくるので、ちょっとここで待っててくれます?」

「ありがとう」

一花は素直に言う。そして傘代を出そうとするのを待たずに須賀は100メートルほど向こうに見えるコンビニまで走って行った。

一花は一人、ボンヤリと立っていた。傘をさす人が行き交う。

寂しかったですか?という須賀の声がふと蘇る。

……うん、寂しくはなかったな、と、同じことを思う。寂しくはなかった。一人じゃなかったから。

いつ頃からいつ頃までそんなことをしていたかはっきり覚えてないが、小学生の頃、一花は眠れないと屋敷の廊下の長椅子に行くようになっていた。

大きな窓の外は暗く、屋敷はひっそりとして物音一つしないような夜更け、持ち出した毛布に一人で包まっていた。

心細くて寂しくて、半泣きで、でも、一人でベットに寝てるのがもっと嫌でそんなところにいたのだと思う。

でも、そのうち声がするのだ。ちょっとからかうような明るい声が。
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