わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「その前に9年いなかったのに?」

榛瑠は可笑しそうに微笑んで「おいで」と一花を引き寄せると、自分の膝に座らせて頬に軽くキスをした。

「そっちが長すぎなの!それに、あの時とは違うもん」

そう、私の家で一緒に育った彼が出て行って音信不通になって9年。それが急に姿を現して……。

「違うの?」

「だって……」

あの当時はわたしがどう思っていたかは別にして、まだ、ただの世話係というか家族というか……。いなくなって辛かったけど、それを言うこともできなかった。

「……そうだね。こんなキスはしなかったしね」

そう言って榛瑠は一花の頭に手をやると唇にキスをした。優しい一時の後、唇を離されてぼんやりしている一花に榛瑠の声が届く。

「やっぱり甘いな」

そのセリフに一花は急にある女性が頭に浮かんだ。背は高くないけどメリハリのあるボディーと派手な顔が。

「その言葉、前、美園さんに言われた。多分わたしのことを言ったんだと思うけど……」

榛瑠は笑った。

「いかにも言いそうだけど。まあ、私がいない時は彼女には近づかないことですね」

そんなこと言いながら二人は結構仲がいい。元々、榛瑠にひっついて日本に来ちゃった人だしなあ、美園さんは。

なんとなく面白くない思いが込み上げてくる。そんな一花を榛瑠が抱きしめた。

「そんな顔しない。心配になるでしょう?」

そうだよね、へんな顔してたら心配かけちゃうよね。しばらく会えないなら、なおさらそれは、ダメだよね。そう思うとなぜか泣きたくなった。

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