わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「とにかく、部屋に行きましょう。体が冷え切ってますよ。服も乾かさないと。いったいどこから濡れてきたんですか」

「ごめんなさい」

「もう、いいから。立てる?」

一花は下を向いたまま唇をかんだ。

「ごめんなさい」

「一花さん?」

「私、私……、あなたが泣いているような気がして……」

榛瑠がもう一度膝をつく。

「……。泣いているのは僕じゃなくて、あなたです」

一花は嗚咽が漏れないように唇を噛み続けた。自分のしたことが愚かしくてどうしようもなかった。

でも、会いたかったの。会いたくて、触れたくて、あなたが今どうしているか知りたくて、側にいたかった……。

涙と雨が頬を濡らした。

榛瑠は一花の肩をそっと抱いた。

「大丈夫ですよ、もう大丈夫。だから、泣かないで」

その声はいつかのように優しかった。冷たい雨は降り続いている。




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