わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
明け方の太陽の日射しが、鬱陶しく目をさした。

榛瑠は腕立て伏せの姿勢から立ち上がると、ミネラルウォーターをボトルから飲んだ。

珍しく着ているものをその場に脱ぎ散らしたまま浴室へ向かう。

事故で入院した時から落ちていた腕の筋肉がだいぶ戻ってきた。腹筋も割れてきたし、ほぼ元どおりだろう。

そんなことを考えながら、熱めのシャワーを浴びる。

ふと、昨日の雨を思い出した。

雨に濡れながら、目の前で一花が泣いていた。

なんで泣いているんだ?

榛瑠には分からなかった。

今までも何度か彼女が泣くところを見たけれど、その時とは様子が違っていた。

体を縮こませて声を殺して泣いている。

ああこれは、一人で泣いてきた人の泣き方だ。

榛瑠は彼女の肩をそっと抱いた。

「大丈夫ですよ、もう大丈夫。だから、泣かないで」

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