わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜

四条ほどではないが彼も長身で、清潔感のある色白の肌とさらっとした黒髪をしていた。雑誌で見た時よりも、いい男に見える、って、すごくないか？

「はい、これ出して」

ノコさんが厨房からカウンターに料理を出す。濃厚ないい匂いが漂う。お得意の牛肉の煮込みだ。

須賀がテーブルに並べていると彼女もホールに出てきた。

「そろそろ差し入れてくれたワイン開ける？」

「そうだね、じゃあ開けましょうか？」

松岡が言い、須賀は急いで新しいグラスを用意した。

持ち込まれたワインのを、もう一人の店のオーナーであるノコの夫がテーブルで開ける。彼は無口で体付きもゴツい方だが、繊細な料理を作る。ソムリエの資格もあるらしかった。

ワインが注がれる様子を厨房の前のカウンターにもたれながら須賀は見ていた。

「うまそ」

ボソッと言った声が、中に戻っていたノコの耳に届いたようだった。

「あれね、多分、一本100万はくだらないわよ」

須賀は意味がわからなくてノコを見て聞き返した。

「え？何？」

「ワインのお値段の話よ」

嘘だろう、と須賀は思った。酒には全く詳しくはないが確かに高そうではあった。でも、え？マジか。食い物の値段かよ。

いや、世の中にはバカみたいな値段がついているものがあるのは知っているが……。

「彼らには高くもないのよ。友人と楽しむワインとして」