わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「彼の家はね、代々政治家でその跡取りね。いまはお父さんの秘書をやってるらしいわ」

「え?マジですか」

「うん、父親は与党の大物よ。びっくりでしょ」

びっくりだよ、全くそんな風に見えない。……日本、大丈夫か?

「で、四条さんですか。……でもあの人ってサラリーマンでしょ?」

まあそうね、と言いながらノコは出来上がったチーズの盛り合わせを須賀に渡す。

須賀は運び終わって戻ってくると、またノコに聞いた。

「四条さんって元々は一花さんとこで働いてたんでしょ?」

「働いたっていうか、育ったのね。昔、天涯孤独だって言ってたな」

つまりは使用人じゃないか、と須賀は思った。以前、ノコも一花の家で働いていたのを知っているから口には出せないけど。

今はいい会社でいい給料をもらっているからって、なんか偉そうなんだよ、あの人。

そう思いながら彼を見ると、端の席で隣にいる松岡の話を静かに聞いている。

……わかってるさ、ヤツは別に目立つことは何にもしてない。

ただ、いるだけで目立っている、だけだ。

「榛瑠も何か知らないけど事業やってるらしいけど。まあ、そんな事はどうでもいいけど」

ノコが差し出したパンの追加を一花のテーブルに須賀は運んだ。

「ありがとう」一花は笑顔だ。「よければ須賀くんも食べて?ノコさん達もね」

一花が厨房に声をかける。
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