わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「本当に、落ち着いたら食べたらいいわ。知り合いばっかりのこんな会だし、遠慮する事ないわよ」

一花の隣で吹子が言う。

「そうそう、おんなじツラばっかりで飽きるよなあ。なあ榛瑠?」

政治家の息子が口を挟んだ。話を振られた男は黙って微笑んだだけだった。

礼を言いつつ、厨房に戻った須賀にノコが言った。

「あと一品で終わりだし、ひとまずいいよ、須賀くん」

「ありがとうございます」

そう言いつつ、どこか躊躇する。気後れしている、という自分を認めたくはない。

自分は、寒い田舎で、金のないところで育った。大学だって、奨学金をとって通っている。

不公平、なんてつまらないことを言う気はない。不公平で普通だ。

でもさ、四条榛瑠だって本来は似たようなもののはずだろ?なのに、さ。

さっきから見ていると、彼の周りに人が来る。グラスに酒を注いだり、話に来たり。

四条自身は席を立たない。隅っこでゆったりと座ってるだけだ。でも、中心にいるのは彼だ。この5人の中で唯一、お嬢様でもお坊ちゃんでもないというのに。

……なんなんだよ。ムカつくな。

環境の差は仕方ないにしても、生まれ持った個体差は一体どうしたらいいんだ。

そんな須賀に一花が笑顔で手招きをした。彼女の頬がほんのり赤い。あの人にしては結構飲んでるんじゃないかな。大丈夫かな。

< 127 / 172 >

この作品をシェア

pagetop