わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
須賀が一花のところに行くと、「グラス持ってこなくちゃ」と言って取りに行こうとする。

須賀はそれを押しとどめて自分で取りに行く。

やっぱり一花さん可愛らしいなあ、って思う。良い意味で、普通っていうか。

ワインも料理も馬鹿みたいに美味かった。いつもみたいにがっつく事なく、須賀は一つ一つ味わって口にした。

次、いつこんなもの口にできるかわからないしな。

もしかしたら、一生ないかもしれない。

いや、そんな事はない。そんな人生にはしない。

隣で一花が「おいしいよねえ」と楽しそうに言う。

うん、と返事しながら彼女を見る。そして思う。

俺だって、手に入れてもいいはずだ。ダメだなんて、ムリだなんて、誰も言ってない。

そう思いながらワインを飲んでいる須賀の横で、一花がグラスの酒を飲み干して、次を飲もうとしていた。

ちょ、ちょっと、マジで?

「一花さん、すすみすぎじゃあ……」

そう言う須賀の横からすっと腕が伸びて、一花が取ろうとしていたボトルが持ち上げられる。

「そろそろ終わりにした方がいいですよ」

そう、須賀の横に立った四条榛瑠がボトルを手に言った。

一花は不服そうな顔をした。四条は黙って少しだけ彼女のグラスに注ぐと、終わり、と言った。

須賀はますます面白くなかった。

記憶喪失になって別れたって言ってたのに、なんだか、なんだよなあ。

「榛瑠さあ、一花ちゃんと別れたんじゃないの?」

唐突に政治家の息子が言った。

「ばか」

横にいた吹子が彼の腕をつねって、いって〜と言っている。あいつ絶対、失言でやらかすタイプだろ。
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