わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「別れてますよ」

一花がどこか怒ったように答えた。……なんか、こんなに不機嫌な一花さんってはじめてだな、と須賀は思う。

モヤモヤしつつも、ホールの仕事の合間に食べた飯も酒も上手くて、須賀はそれなりに満足だった。

やがて最期のデザートまで終わった時、一花がお暇する、と言い出した。時刻は10時を過ぎる頃だった。

「え?もうですか?」

須賀が驚いて聞くと一花は残念そうに言った。

「うん、明日も会社だし。家まで帰るのにも時間かかるし」

あ、そうなんだ……。

須賀は皿の後片付けをしつつ、一人で大丈夫ですか?と聞く。一花は案の定、大丈夫、と言いつつ帰り支度をしているが……。

どう見ても顔赤いし。平気じゃなくないか?それでなくてもクリスマスで人が多いのに、絡まれそうじゃん、この人。

そんな心配をよそに一花はその場にいた人達に挨拶をするとさっさと店を出て行った。

「あ、一花さん、待っ……!」

皿をガチャンとその場に置き、慌てて後を追おうとする須賀の肩を誰かが押し留めた。

うるっせーなと勢いよく後ろを見た須賀の前にコートを着た四条榛瑠がいた。

「え?」

「私も帰りますから大丈夫ですよ」

見上げる須賀に微笑を浮かべて言う。

「帰るんか?榛瑠。気をつけてなあ」

あいかわらず能天気な声で政治家息子が言う。四条は丁寧な挨拶を残し、その場を去った。
< 129 / 172 >

この作品をシェア

pagetop