わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
須賀はその場で立ちつくしていたが、店のドアが閉まる音と同時に振り返った。もう、四条の姿はない。

……あのやろう、上から見下ろしやがって。全然、目が笑ってないだろうがっ。

その金色の瞳に射すくめられるように止まってしまった自分にも腹が立った。あークソっ。

急いで後を追おうと一歩踏み出した須賀の肩に再び手が置かれた。

誰だよ、一体!

腹を立てながら振り返ると、今度そこにいたのは松岡だった。

「なんです……」

言い終わらない内に松岡が言った。

「君はいったい何がしたい人なの?」

何だって?

「したい事があるんだろ?オーナーに聞いたよ。よければ少し話をしないか?」

須賀は眉をよせたままの表情で、頭の中でグルグルと考えた。

なんだ?オーナー?ノコさん?俺のしたい事?

そして一気に答えがくる。この店の人にだけ勢いで口を滑らせた、俺のバカみたいな妄想のことか?

「え?あー?」

間抜けな声に松岡は柔らかい笑顔で返した。でも、こちらも目は笑っていない。本気だ。

須賀はどこかでそう感じて、彼の目を見ながら答えた。

「俺、ビジネスがしたいんです。……『食』で世界に出たいんです」

松岡はにっこりと笑った。


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