わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
仕事に戻った須賀にノコがいくつかグラスを渡す。それを運んでいると、ノコが厨房の入り口から大きな声で言った。

「吹子さん、日本酒のむ?スーパーのやっすいヤツだけど」

「飲む!」

即答を待たずして、ノコが一升瓶を手にホールに出てきた。須賀は慌ててグラスをみんなの前に置く。

松岡だけはグラスを断った。

「飲まれないんですか?」

「違う種類の酒を一度に飲むと調子悪くなるんだよ。だから遠慮しとくよ」

安酒だしな、と思う須賀の思いを打ち消すように楽しそうな笑い声がした。

「格好つけてるけど、ただ単に、そいつ腹が弱いだけだからな!」

「……うるっせえよ、ショータ」

政治家息子、ショータって言うのか。ていうか、いま言葉悪くなってたよな、松岡さん。

「ほんとよ、だまんなさいよ。それより、ほら飲む!政治家は安酒飲めてなんぼでしょ!」

「いつの時代だよー、吹子」

情けない声で返答するショータのグラスに吹子の手からなみなみと透明な液体が注がれる。

なんか、この綺麗なお姉さん、一升瓶が似合うなあ。

口に出したら怖いんだろうなあ、と思っている須賀のところにも、なぜか酒が回ってきて、今晩で何回目だかの乾杯になった。





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