わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「あーあ」

「何よ、今、場所押さえててくれてるんだから。ため息つかないで」

「違うって、そうじゃなくて」

吹子とショータの会話が漏れてくる。今から次の店とってんのか?無理じゃねえの?クリスマスだぞ?

立ち去ろうとする須賀に気づいて、松岡が手振りでなんか合図する。なんだ?

足を止めて待っていると、やがて電話を切った松岡が「取れたよ」と二人に言うと、須賀の方に来た。

びっくりして立ち尽くす須賀に言う。

「さっきの話、結局中途半端で終わってたから」

さっきのって?

「店の中ですると君に都合悪いかもしれないからね。ちょっと話聞いてて思いついたんだけど、君、空いてる時間があればうちの会社でバイトする?事務系で」

須賀は驚いて声もすぐに出なかった。

「え?いいんですか?」

「雑用だけど。ちょうど動ける人が欲しかったんだ。君にも勉強になることがあるかもしれないし。今のバイトしながらでも構わないよ」

……この人、神か?まじかよ⁈

「ぜひっ、お願いします!」

松岡と連絡先を交換すると、また連絡するからと笑顔で言って彼は背を向けた。

須賀はその背に深々と礼をした。顔をあげると、三人で並んで歩いているのが見えた。

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