わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
駅に近づくとますます人が多くなった。駅前の広場に賑やかに飾り付けられた大きなクリスマスツリーがあって、その天辺に金色に光る大きな星がつけてあるのが見えた。

別れる場所が近づいて、どこかほっとするような、なんだかもどかしいような気がした。

と、またしても唐突に榛瑠が言った。

「実は、あなたにクリスマスプレゼントを用意したのですが……。受け取って貰うのは難しいかな」

一花は思いもよらない言葉に足を止めて隣の男の顔を見上げた。

「え?なんで?」

「なんでと言われても、クリスマスだし」

榛瑠は笑いながら言った。え?え?

「私、何も用意してないよ?」

「そういうことじゃないから」

「でも……」

一花は下を向いた。今の彼から何か貰うのって……。例えば無くなってしまうような食べ物なんかでも、なんだかシンドイ。

「無理なのわかったからそんな顔しないで。口にしない方が良かったね、すみません。ただ、いろいろ迷惑かけたしと思っただけなんです。気にしないで」

「……ごめんなさい」

うん、と彼は言った。きっと傷つけている。わかっているのに。

わかってて、拒否してしまう、という甘え方をしていると、一花はちらっと思う。

でも、取り消す気にはなれなかった。代わりに取り繕うつもりで言った。
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