わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「できればあまり気を回さないで。大体、考えてみれば今までもあなたから何かプレゼントされたことなんてなかったし。形見の指輪はもらったけど」

「何にもなかった?」

「うん。でも、マンションに行くといつも食事作ってくれたりとか色々してくれたから……。正直、今の今までそのことに気づいてなかったわ」

一花は自分で言ってクスッと笑ってしまった。本当に気づいてなかった。

「あなたに贈り物って難しいですからね。ご自分で大概のものは手に入れられるでしょうし」

「そうね、わたし、物欲あんまりないし。でも……」一花は暗い空を見上げながらわざと明るい声を出した。「ふつうに女の子としてなんかもらっといても良かったな。物より思い出っていうけど、物だって思い出だものね」

「今ここにありますよ?」

「いらないわ」一花は笑って言った。肺に冷たい空気が入る。そういえば、手が冷たいと気づく。「ごめんね。私、思ったよりひどい人みたい」

「そのようですね」

そう言った榛瑠も微笑んだまま、表情は変わってないように見えた。

一花は自分の中に残酷な部分を見る。傷つけていることが嫌じゃない自分を。仕返しをしようとしている自分を。

代償は嫌われること。もう、取り返しがつかないくらい嫌ってくれればいいのに。
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