わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花は俯いて首元の星を見た。そっと器用に首の後ろでネックレスの金具が閉じられるのを感じる。

泣きそうだった。何が悲しいのか、もはやわからないけれど。

「怒ってもいいから、泣かないで」

榛瑠が後ろから言った。耐えられないくらい優しい声で。

それから後ろ首にそっと唇が触れたのがわかった。身体中でぞくっとして、一花は息を止めて目をつむる。

榛瑠の低い声が耳元でした。

「おかしいでしょう?自分で自分に嫉妬してるなんて」

え?なに?

意味がわからず一花はその場で立ち尽くした。はっと気づいて振り返ると、人混みの中を去っていく金色の髪が見えた。

自分のことを偽物だと言った人が。

一花の視界がぼやける。大きく息を吐いて空を見上げるとやはり本物の星を見ることは無くて、代わりにツリーの上の金色の星が滲んで目に入った。

ツリーの周りにも沢山のカップルがいる。みんな寄り添って幸せそうにみえる。

このうちどれだけが明日の朝も幸せだろうか、そう一花は思った。

愛しているという言葉が今夜どれだけ囁かれて、それが終わらないのはどれだけだろう。

でも。わかってて、でも、言うのだろう。

通りは作られた灯りであふれている。根のない木には沢山のオーナメントがキラキラしている。

涙が溢れた瞳にそれはますます綺麗にうつる。

みんな欲しくて堪らないのだ。何かを手に入れたくて堪らなくて、そして偽物が溢れだす。

夜に昼が、木の上に星が、恋人には愛が。

そしていつかの、大切な何かを夢みている。

一花は胸にかけられた偽物の星を握った。

どうか、愛しい偽物たちに祝福を。

Merry Christmas
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