わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「で、何でここへ?」

一花は玄関先で紙袋を両手で抱えたまま答えた。

「えっと、風邪引いてるって聞いたので、お見舞い」

「休んでなんですが、大したことないですから。感染るといけないので……」

榛瑠は横になっていたのか、いつもより大分ラフな格好をしていた。やっぱり起こしちゃったかなあと思いつつ、彼の言葉を遮った。

「平気。私、丈夫だから」

「はい?」

「免疫強いの。ここのところ何年も風邪らしい風邪ひいてないし。屋敷中でみんな風邪ひいたりした年でも風邪引かなかったし」

「それはいいことですけど……」

そう言いながら玄関の壁に肩を預けている。体がだるいなら早くそこ通してよね。

「とにかく、上がらせて。これだけでも置かせて」

そう言って半ば無理やり上がりこむと、一花はキッチンに直行してテーブルに紙袋を置いて中を取り出す。

「なんですか、それ?」

後ろからついてくる形になった榛瑠が覗き込んで言う。

一花は無言で包まれていた布のカバーもとって中身を出した。

「お粥。まだ少しは温かいけどもう一度火にかけたほうがいいかしら?」

一花は小さい土鍋を抱えながら言った。榛瑠は間をおいた後、抑えた笑い声を上げた。

「え?何で?」

戸惑う一花に直接答えず、榛瑠はなおも笑いながら土鍋を受け取るとコンロにかけた。
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