わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「これどうしたんです?今日、出社したんでしょ?」

そう、時計に目をやりながら榛瑠が言う。まだ夕食時だ。

「えっと、家に電話して、終業時間に合わせて持ってきてもらった。そんなわけで品質は大丈夫よ。おいしいわよ、心配しないで」

「何の心配?」

「……私が作ったんじゃないってことよ」

一花がそういうと、榛瑠はお腹を抱えようかという勢いで笑う。そんなにおかしい事言ってないのに、と一花は思う。

程なく鍋が温まると榛瑠は自分でテーブルまで運んだ。

「せっかくですので、いただきますね。ありがとうございます」

「どうぞ」

榛瑠はいつもより明らかにゆっくり食事している。そして、半分ほど残して箸をおいた。

「残りは後でいただきます。ごちそうさま」

見た感じより、たぶん調子悪いんだな、と一花は思う。

榛瑠は立ち上がって薬を取ってくると飲んだ。

「インフルエンザじゃないの?」

「違いますよ、病院に行って調べました。インフルエンザなら、あなたを家にはあげませんよ」

それはそうか。

「熱は?」

「ありますね」

「……薬飲んだら寝てください」

「はい」

大人しく榛瑠は言うと、寝室に行く。そこでベットの端に座ると、「あ、しまった」と言った。

「どうしたの?」

「水を持ってくるのを忘れました」
< 146 / 172 >

この作品をシェア

pagetop