わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「まさか」

榛瑠は笑いを含んだ声で言った。そっか、まさかなんだ。ほっとする。嬉しいと思う。

と、また榛瑠が顔を上げて一花を見て、からかうような笑顔を向けてくる。

「嬉しい?」

この男はっ。

「……嬉しいわよっ」

恥ずかしさを押しのけて、一花は半ば自棄気味に言ってみる。

榛瑠はクスクス笑った。それから一花の首にかかっていた小さな星を指で引っ掛けた。

「僕の意地悪にいちいちつきあわなくてもいいのに」

そんなんじゃない。

「これはつけたいからつけてるのよ。……嬉しかったわ、ありがとう」

榛瑠はネックレスから指を外すと、同じ指で一花の頬にかかっていた髪を優しくどけた。

それから、もう一度キスをした。唇をあわせるだけの、穏やかで丁寧なキスだった。

「帰したくなくなるな」

榛瑠が一花の髪に触れながら微笑む。一花は心臓の鼓動と一緒に息を深く一度吸った。

「……帰らなくてもいいわよ? 夜中に熱上がるかもしれないし……」

「うん、そうだね」

そう言って、一花から離れると、壁に持たれるようにベットの上で座る。

一花も起きて座った。榛瑠は首をわずかに傾げて一花見ている。そんな榛瑠を見て一花は小さくため息をついた。

「帰って欲しいのね?」

「そう」

「もう……」しょうがないなあ。結局こうなんだから。「わかった、帰ります」
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