わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「うん」

一花はベットから降りて立つと榛瑠に向き合った。

「そのかわり、調子が悪くなったら、絶対、連絡してね。夜中でもよ?いい?」

「はいはい」

「絶対よ。はっきり言って、迷惑とかないから。だって、私、高橋さんに車出してもらって乗ってくるだけだもん」

榛瑠は笑った。

「困ったお嬢様だなあ」

「そうよ、いいの、それで」

「わかりました、お嬢様」一花はドキッとした。榛瑠にこんなふうにお嬢様と呼ばれたのはいつぶりかしら。「じゃ、はいこれ」

榛瑠は服のポケットから何か取り出すと一花に差し出した。一花の手のひらの上に置かれたのは見覚えのある鍵だった。

「え?」

「出て行く時、鍵かけていって。玄関まで行くの嫌だし」

「わかった。じゃあ、えっと、そのうち元気になったら返すから」

「いらない。そのまま持ってて」

「……うん、わかった」

一花は鍵をぎゅっと握りしめた。
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