わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花は涙声で答える。

「当たり前よ。私はどこにも行かないわ。……ずっと、ここにいる。……でも、でもね、早くしなくちゃ……だめだからね。早く治さないと……」

そこまで言って、涙を止めていられなくて声が続かなくなる。

「そうですね。そうします。ちょっと話が長くなりました。すみません、もう、終わります。寝ますね」

「うん、……おやすみなさい」

「おやすみなさい」

榛瑠の声は最後まで明るくて、そして、穏やかだった。一花は通話が切れると顔を両手で覆った。声を殺すこともできないまま涙が溢れ続けた。

榛瑠、榛瑠、どうしよう、大好き。

どうか、榛瑠の熱が早く下がりますように。この夜が彼にとって優しいものでありますように。

暗い部屋を窓から月の光が照らしている。






榛瑠は電話を切ると、ベットに仰向けになったまま真っ暗な天井を静かに眺めていた。

それから「I was already happy」と小さく呟くと、ゆっくりと目を閉じた。



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