わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜

朝の光を浴びながら、榛瑠はいつものようにキッチンで水を飲んだ。

結局、2日寝込んだ。熱が下がって回復して起きたばかりで、頭も体も重い。

窓の外の冬の早朝の澄んだ寒さを思う。週末のせいか時間のせいか、いつもより静かに感じる。

もう一度水を飲んだ。セラミックトップのキッチンカウンターにガラスのコップが置かれて、コンっと乾いた音をたてる。

そのままぼんやりと大きな窓から外を眺めた。カーテンのない高層階の窓の視界を遮るものは何もない。

外を見たまま榛瑠はしばらく身じろぎもしなかった。

やがて、カウンターの淵に両手でつかまってしゃがみ込んで下を向く。

その姿勢で固まっていたかと思うと、何かを呟いて急に勢いよく立ち上がり早足で部屋を出て行った。



一花は目を覚ますと体をおこして大きく伸びをした。

時計を見ると平日の起床時間と同じ。週末だけど、いつもの朝だ。

榛瑠は結局、先週は出社しなかった。美園さんは翌日に来たみたいだけど。

どうしてるかな、熱は下がったかしら。もう一度連絡してみよう。

そんなことを考えながら着替え終わると、朝食をとるために部屋を出た。

そして、廊下の開けたところに置いてある長椅子のところまで来ると足を止めた。

大きな窓からはいつもの手入れをされた庭が見える。が、長椅子の端に見慣れないものがある。

一瞬、なにかわからなかったが、それは人の足先だった。
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