わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「ちょっと、ちょっと待って、ねえってば。榛瑠!」

力ずくで一花は押し返した。「ちょっと待ってって言ってるのに」

「何か問題でも?」

一花を抱きしめながら至近距離のまま榛瑠が聞く。問題って、だって。

ずっとキスしてるのよ。ちょっとストップ!

「だって、……唇の感覚なくなっちゃう」

「いけないの?」

あーもー!いきなり元どおりだわ、この人。

「いけないの!」

一花の言葉に、榛瑠はいかにも可笑しそうに声をだして笑った。そして、一花の肩に頭をのせる。

朝の日はだいぶ高くなり、その日差しを感じながら二人はそのまま長椅子に腰掛けていた。

「いつ、記憶が戻ったの?」

「今朝」

「今朝⁈ 病院行った方がいいんじゃない?」

「うん、そうだね」

と、全く気のない返事をする。

「でもよかった」と榛瑠は一花の肩に頭を預けたまま言う。「今回はさすがに詰んだかと思った」

「詰んだって、何?」

「あなたが我慢強い人でよかったってことです」

ああ……。

「言っとくけど、詰ませようとしたのはあなたの方よ」

榛瑠は頭を起こして一花を見ながら答えた。

「そうですね、ごめんなさい」

「感謝して?」

って、単に私が諦めが悪かっただけなんだけど、本当は。

「してます。ありがとうございます」
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