わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「しばらくは私のこと大事にしなくちゃダメなんだからね」

一花はここぞとばかりに言ってみる。ちょっとくらい、調子に乗ってみたっていいよね?

「ずっと大事にします」

そう言って榛瑠は一花の手を取ると手の甲にキスをした。

「あなたは素晴らしいよ、一花」

一花の胸が静かに高鳴った。

「……ありがとう」

榛瑠の唇が再び一花に重ねられた。優しくて温かいキスだった。それから抱きしめられる。

一花は満たされた思いで抱きしめ返した。

大好きな、いつもの榛瑠。

榛瑠は腕をほどきもう一度キスをすると、一花を見つめた。

「このまま連れ去ろうかな」

「え?どこ行くの?あ、とりあえずお腹すいた。そろそろ朝ごはん食べに行かないと、怒られちゃう」

「あのねえ……。色気ないなあ」

そんなもの、あったためしないんだもん。

「だって、嶋さん呼びに来ちゃう……。あなたがここに来てること知ってるんだよね」

「当たり前。知られずにここに入り込むなんて不可能でしょう?」

そうだけど。

「じゃあ、気を使って呼びにきてないんだよ。榛瑠、朝食は?」

「私は食べません」

そうだった。

「でも、コーヒーぐらい飲むでしょ、行こう」

立ち上がって手を差し出す一花に、しょうがないな、というような顔をしてその手をとると、榛瑠も立ち上がった
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