わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜

エピローグ

耳元でカサカサと音がする。なんだろう。葉っぱかな。風の音だ。

遠くから声がする。体の上の温かくて重いものが取り除かれて、少し寒さがくる。

あーあ……。

また、声がする。誰かが呼んでいる。……ああ、一花だ。うるさいなあ、ボス行っちゃったじゃないか。

「いたいた」

近くで声がして、人が座る気配がする。軽やかな気配。それから一花の声。

眠いんだ。ほっといてくれ。

また、乾いた風の音がした。

目をうっすらと開けると、すぐ目の前に少女の顔がぼんやり見えた。自分の頰に微かに彼女の長い黒髪の先が触れているのがわかる。

「起きて、ねえ、榛瑠」

ああ、やかましい。このお嬢様は……。

目をつぶったまま腕を伸ばす。少女の華奢な腕を捉えると、そのまま強く引き寄せた。

「きゃっ、え?榛瑠⁈」

その高い声を聞きながら、両腕で抱きしめる。

猫よりあったかいんだよなあ、こいつ。ああ、もう、じたばたしない。

頼むからさ、もう少しだけ。

もう少しだけ、ずっと。そばにいてよ、一花。






〈 fin 〉

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