わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花が今度こそしっかり目を開けると、大好きな人の金色の瞳で見つめられた。彼は微笑んでいる。それから黙ってキスされる。さっきよりも長く。

「……榛瑠はいつ起きたの?」

「しばらく前」

「え?そうなの?じゃあ……」

言い終わる前にまた唇を奪われた。昨日、彼の記憶が戻った時から、なんだかずっとキスされている気がする。

「……何してたの?起きてから」

一花は聞いた。いつも榛瑠は、少なくとも記憶喪失になる前の彼は、時間を無駄にする人ではなかった。目を覚ましたのにこんな時間までベットの中にいるなんてしない。

横になったまま本でも読んでいたのかしら?

「何ってわけじゃないけど」榛瑠が答える。

「本を読んでた?」

「一花を見てた」

……え?えーと。なんだかまだどこかぼんやりしているせいか、よくわからない。

「一花を見てたよ。……泣きそうになりながら」

なんて言った?

驚く一花にそれ以上何も言わずに榛瑠は起き上がると、服を着ながら言った。

「食事をつくっておくよ。適当に起きておいで」

一花は寝室から出て行く白いTシャツを着た後ろ姿を見ながら、一体どうしたのかと思っていた。

彼が意味なく私を見てて、で、何?泣く?なんで?

一体何がどうしちゃってるの?

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