わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花はリビングのソファーで食後のコーヒーを堪能していた。入れてくれた人は別室で電話しているようだった。

もうすっかり昼だが外は晴れて、温かい日差しが窓越しに入っている。なんだか久しぶりに明るい窓を見た気がして、一花はカップを持ったまま、ぼんやりと外を見た。

「すみませんでした」

榛瑠が部屋に戻ってくる。

「ううん、仕事?大丈夫?」

大丈夫、と言いつつ、一花の横に座る。

「ねえ、記憶がない間、あなたの会社の仕事に支障なかったの?」

「意外とね。フォローしてもらいましたし、元々、私なんていなくてもまわっているんですよ」

そう榛瑠はにこやかに言った。

「そんなものなのかなあ。あ、そうだ、周りの人に言った?記憶戻ったって」

「さっき、ついでに言っておきました」

「ついでって……。びっくりしてたでしょ?」

「いや、面白がっていましたよ」

よくわかんない。なんか、よくわかんないなあ、榛瑠の周りは。

「吹子様には言った?」

「いいえ、瞬に言ったので、伝わるでしょう」

「……ダメだよ!すごく心配してくれて、迷惑もかけたのに!覚えてるでしょ?」

どれだけ心配してくれたと思ってるの!

「わかってますけどね」

「じゃあ!」

「でも、嫌」

なに、嫌って。

「コゴト言われるに決まってるから、嫌」

「あのねえ……」

子供じゃないんだから。

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