わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「そのうち、直接会って言いますよ。みんな、まとめてね。いっぺんに聞いた方がましだから」

そう言う榛瑠の表情は楽しそうで、それが彼らとの付き合い方なんだなあって思う。なんだか、ちょっと羨ましく思っちゃうのはなんでだろう。

一花は気になっていたもう一人の名を出した。

「ね、あの、美園さんには言ったの?」

「いいえ」一瞬、どこかでほっとする。「でも、早速聞いたみたいで、今電話してきて話しました」

ああ、彼女と話していたのか。そっか……いつもより長電話だとは思ったけど。

「……なんて言ってたか聞いていい?」

「別にこれといって。いろいろ言ってたけど面倒だからあんまり聞かなかった」

もう、誰に対しても話聞かないなあ。それとも女子限定?

「でもまあ、戻って喜んでたようですよ」

「え、そうなんだ」

それは予想外だった。美園さんは、記憶のない榛瑠といる方がいいのかと思ってた。私より、ずっと彼の近くにいれたもの。……私と違って。

「彼女は彼女なりに大事にしてたものがあるのでしょうね」

そう言って自分のコーヒーに口をつける榛瑠の顔は穏やかで、一花の胸はズキッとした。あまりにわかりやすく痛かったので、一花自身が驚いたくらいだった。

榛瑠はカップを置くと一花を見た。

「どうしたの?」

「ううん……」

榛瑠は両手で彼女の頬を包むと、そっと上を向かせて唇にキスをした。

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