わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「なんで」

「嫌だから」

「もう!どっちが人の話……」

言葉は途中で遮られた。榛瑠はひと時の後、唇をはなすと言った。

「唇にキスすることの欠点は言葉を遮っちゃうことですね」

「……どうせ、話なんて聞く気ないくせに」

「そんなことないですよ」

あんまり榛瑠がにっこり微笑むので、一花は逆にふくれっ面をした。

「本当ですよ」榛瑠は一花の唇に人差し指を置く「他にも言いたいことがあったら、なんでも言ってください。今回は本当に」

そう言った瞳は思ったより真剣で、逆に一花は申し訳なくなってしまう。

「そんな、別に言いたいことなんて……」

それこそ本当は、榛瑠がこうして側にいてくれるだけでいいのだ。

「なんでも聞きますよ」

そうはいっても……。

一花はまだなにかあったっけ?と考えた。……あらかた昨晩のうちに泣きながら話しちゃってるしなあ……。

「……あ、あった!」

「なんでしょう」

一花は改めて榛瑠に向き直った。

「私、欲しいものがあるんですけど」

「なんなりと」

「指輪下さい」

「どんなのがよろしいですか?」

「ペアの指輪。あなたが私に用意して捨てちゃったのとおんなじヤツ」

榛瑠は微笑みながら、ちょっと首を傾げた。

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